さぶかるもん

アニメ歴約20年、ドラマ歴約5年の硬派オタクによる備忘録

『お母さん、娘をやめていいですか?』へのカウンターとしての『過保護のカホコ』

『お母さん、娘をやめていいですか?』(以下、オカムス表記)は、今年NHKで放送された井上由美子脚本のドラマで、娘を支配し、依存する毒親を描き話題となった作品で、『過保護のカホコ』(以下、カホコ)と共通点は多い。しかし、描かれ方は正反対的で『オカムス』が狂気を帯びた深刻なサスペンスである一方、『カホコ』はコメディ調のホームドラマである。

 

加穂子の家族や親族の家庭のゴタゴタは、幼少期に母親が出ていった麦野初からしたら「心温まるエピソード」であるとして、あくまで恵まれた家庭として位置付けており、これが、遊川さんが込めた願いの核であり、そういったメッセージはドラマの中で殆ど台詞で説明されている。人間は皆、欠点があるという前提に立ち、不幸にならない、しないために何ができるのか考え、心のドアを開ける鍵となる存在の必要性を説いている。最初は過保護であることが麦野初を通して否定的に語られていたが、最終的にはその初も加穂子に保護をされて居場所を見つけており、過保護で何が悪いのかといった結論に至るのだ。

 

一方、このドラマを、家族愛、家族は仲良くしなければいけないといった価値観の押しつけと感じ受け付けなかったり、呪いと受け取るような方もいると思われるが、糸や教子おばさんのことを見ると、そういった面を相殺する役割を担っていると思われる。糸は、親のことを退屈な人間と思っており、それは改心した後でも恐らく変わっていない。「親や兄弟なんてどうでもいい。血縁関係ってだけでなぜ愛さなければいけないのか」「自分は愛のない人間」と語っていた教子おばさんは、最終的に愛に目覚めたように見える。しかし、「自分が傷ついたり失敗したりしてもいつでも帰ってこれる場所があることがどれだけ幸せなことか私が一番よくわかってる」というのは本心としても、フリースクールを作ろうと考えたのは、高齢者向けのパソコン教室をやろうとしたノリと本質的には変わってないのではないかとも思えるのである。幸せな環境であることは感謝するべきだが、親を好きになる必要も仲良くする必要もなく、適度な距離を保ちつつ、自分のやりたいことや、生きがいのために悪く言えば「利用」してうまく生きていく、したたかな親とのつきあい方も同時に提示しているのだ。

 

引っかかる点を挙げるとしたら、初がなんだかんだで加穂子に依存してしまってることで、方向性に悩んでたとはいえ、自分で決めて学んだ美術についての価値判断を加穂子に投げてしまっているのは意志薄弱すぎるのではないかと思う次第。

 

ドラマとしての評価は、遊川さんの前作、『はじめまして、愛しています。』もそうだったが、社会的なメッセージ性を前面に出し、ストレートに伝えたいことを伝えるといったことを意識しているような作りで、それはそれでありであるが、展開はご都合主義なところが目立ち、絵に描いたような大団円なので、物足りなく感じ、冷める部分もあるのが正直なところ。『カホコ』は、すごくキャラが立っていたので楽しめたが、今後もこのモードが続くのか注目したい。

 

過保護のカホコ Blu-ray BOX

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