さぶかるもん

アニメ歴約20年、ドラマ歴約5年の硬派オタクによる備忘録

『神の舌を持つ男』 1、2話 感想

堤ワールド満載であるが、『TRICK』ほどはっちゃけておらず、今のところ2時間サスペンスのパロディの域を出ていない。舞台もメインが温泉地なのであまり代わり映えせず、ミステリーの部分でもいまいち。

脚本家の櫻井武晴さんは、これがTBSでの全話脚本担当作品の3本目になりますが、どんどん櫻井さんらしさが削がれていて、コナン映画では成功していますが、同じ『相棒』で有名になった脚本家の古沢良太さんと比べると、仕事に恵まれていない印象をどうしても持ってしまいます。

『コンクリート・レボルティオ〜超人幻想〜』総評 内向きで響くものがあまりなかった

「正義」とはトラウマのようなものだ
これは精神科医斎藤環さんが08年にPHPオンラインの連載で『ダークナイト』を主軸に語った理論で、この作品の主人公たちもそれを背負っており、個人的には大好物な話で期待していたんですが、いまいち乗れなかったのが正直なところ。斎藤環さんのコラムの締めくくりとして
もはや正義に単純な希望を託すことはできない。それはもはや、ノスタルジーの身ぶりとしてしかありえず、その意味で希望は過去にしかない、のかもしれない。
しかし「9.11」以後の世界において、「正義」をこのように相対化し、懐疑してみる姿勢はもはや避けることはできない。それはいささか寂しいことかもし れないが、認識としては前進なのだから。そこから先に何が見えるかはまだわからない。
とあるのですが、この作品はそこから先には達しておらず、前段のところに留まっており、外に対して説得力のあるものを提示できていなかったように思います。特撮愛、サブカル愛に溢れているのは、まあ伝わるのですが、脚本の會川さん個人の自分史の整理を作品でやっている感が強かった。
 
内容の面以外では、台詞に頼りすぎており、話の運び方が理屈っぽいので、ちょっと観ていて疲れる面があり、エンターテイメントとしてはいまいち。脚本に引っ張られてか、演出もアクション以外は、作画も低調で、単にキャラを喋らせているという感じが強く、深く印象に残るシーンがあまりありませんでした。若者受けを意識してか知りませんが、中途半端に世界観を子ども向けっぽくしたり、バラエティ要素を入れたりせず、シリアスな大人のエンターテイメントとしてやった方が良かったのではと思います。
 
水島精二監督と會川さんコンビの作品としては、『大江戸ロケット』のようなものをまたやって欲しいです。
 

 

 

 

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話がまともに作れないならポエムを書けばいいと思うよ 『キズナイーバー』&『迷家』の難点 ②

前回の記事はこちら

 
今回は『迷家』についての感想とまとめを書いています。
 

迷家-マヨイガ-

こちらはホラーなので設定の粗はそこまで気になる部分はなかったのですが、何故わざわざ生活環境の不明な都市伝説の村で人生をやり直そうとするとかという動機の説得力が弱い。あと、納鳴村について調べる過程でこはるん父の研究に行き当たらなかったのかなと。
 
そして、30人もの登場人物を捌ききれずに、結局、最後が駆け足展開となってしい、情緒もへったくれもないたたみ方。
 
内容においては、ネタ要素が強く、何を魅せたいのかぼやけてしまっている。これは、現代の視聴スタイルに合わせて話題になりやすくしようとした結果かもしれませんが、トラウマ含めてネタ消費に還元されてしまい、感情移入を妨げる方向に働いてしまっていると思います。そもそも、ホラーものとして全然怖くないのは致命的。
 
結論は、『キズナイーバー』と同じ感じですが、この作品はドライさがあり、しいていえばこちらの方が好みで、登場人物を減らし、キャラの深堀をちゃんとしていれば、いい作品になったんじゃないかなと思います。
 

まとめ

個人的には非常に残念な出来でしたが、世間的に受けてヒットしたなら、企画としては成功なので、そこは納得します。しかし、今のところ1巻の円盤の売り上げは『キズナイーバー』は1300枚程、『迷家』は発売前ですが同程度と見込まれており、商業的には失敗と言えるでしょう。
 
当然、売り上げが全てではないのですが、この2作品は、企画側の姿勢として「流行りからずれていて売れないかもしれないけど、自分たちが信じる良い作品を作ろう」といった類のものではなく、宣伝文句(アニメ業界の先頭を突っ走るヒットメーカーによる奇跡のコラボレーションプロジェクトが始動! by 迷家)等からしても「話題性があり、売れるような作品を作ろう!」という算段が強い面がある企画だと思うので、そこを考えれば、完全に目算が外れてしまった結果だと思います。
 
タイトルで脚本家を揶揄するようなことを書きましたが、脚本家に全ての責任があると思っているわけではなく、スケジュール(予算)の問題、製作委員会方式の問題など、様々な要因が絡んでいて、一様には言えないでしょう。
 
一つの改善案としては、ハリウッドがやっているようなスクリプト・ドクターを導入することが考えられますが、日本には殆どいないようなので、現実的に導入するとしても時間がかかりそうです。
 
とはいえ、仮に製作関係者の多くが、これを自信満々にいい作品だと自負しており、今回は当たらなかっただけ、仕方ない。というような意識でいるとしたら、システムの問題以前の話で対処しようがありませんので、そうではないことを願いたいです。

話がまともに作れないならポエムを書けばいいと思うよ 『キズナイーバー』&『迷家』の難点 ①

今をときめく岡田麿里脚本のオリジナル2作が残念な出来だったので、何が駄目なのかを考察。
 
共通する主な問題点は、設定が投げやり、結論含めてほぼ台詞で説明、トラウマ描写がおざなり・紋切り型でキャラの深みがない、都合のいいアシストキャラが目立つ、最終的に急にみんな物わかりが良くなる、大人がまぬけ。といったところで、ターゲットが中高生にしても、ちょっと子供だまし的で視聴者を信用していない印象を持ちました。では、各作品ごとの感想を。
 

キズナイーバー

見ていない方は、細かい設定などWikipediaを参考にしてください。 
 
まず、設定について。キズナシステムの実験が始まった背景が全く描かれず、世界平和に繋がるという説明があるのみ。何がどうなったら実験成功か、どう平和に繋がるのか不明のままで、説得力が皆無。それを世界各国が援助して(一度失敗してるのに)やっているというのが滑稽の極み。そして、スケールの大きい話だったのが最終的に個人の感情、友情や恋愛の話に収束してしまって、設定は単に都合のいい装置でしかなく、園崎も過去の経緯があるにしても何でこのプロジェクトを任され指揮する立場にあるのかよくわからないという(笑)
 
都合のいいキャラは、極度のマゾヒストの日染芳春。賑やかし要因として機能させつつ、非常に物わかりがよく、他人の気持ちを代弁し、核心めいたことを言わせるためだけに存在し、大したエピソードは描かれません。あとは、一応キズナの会メンバーのマスコット達も都合のよい使い捨て要因(笑)
 
あとは、大人側がまぬけという問題で、特にそれを感じるのがスクールカウンセラーの漆原。彼女は、システムが解除された後でもメンバーが勝平の思いを聞いて胸の苦しみを感じたことに対して、こんなことを言います。
「誰かの痛みを自分の痛みのように感じる。それは私たちがキズナシステムで目指していたもの。ありがとう、キズナシステムがなくてもそれが可能だと教えてくれて」
そもそも人が全く他者の感情が理解できない存在という前提だったのか!(笑)そして、こんな発言を大人、しかもカウンセラーがするというおかしさ。ちゃんとカウンセラーの仕事をしてください<(_ _)>
 
そして最終的な結論が、「気持ちがわからないからお互い気になったりする、傷つけあうことがあっても、痛みと向き合い、それを乗り越えて仲良くやろう、友達万歳!」といったものなんですが、この結論とキズナシステムの必要性の話は別であり、最後は完全に園崎の個人的な動機によるものとなっていて、根本の設定の整合性の問題が立ち上がる構造になっております。
 
キズナイーバーについては以上。
 
ここで突然ですが、オススメの本を紹介します。
 
次回は迷家の感想とまとめを書きます。
 
 

2016年春ドラマ 総括

観れた作品の中で、面白かった順に並べると、『奇跡の人』、『火の粉』、『僕のヤバい妻』、『トットてれび』、『99.9―刑事専門弁護士―』、『コントレール ~罪と恋~ 』といった感じになります。

 
『奇跡の人』の感想はこちらに書いたので、それ以外の作品の感想を簡単に。
 
 

『火の粉』

原作は既読。原作とは展開や結末が違うのですが、それが見事に成功していて、個人的には原作よりドラマの方が好みです。
 
演出もバームクーヘンやマッサージチェアなどの小道具や、効果音の使い方が巧く、印象に残させる工夫が随所にあります。
 

 

火の粉 DVD-BOX

 

 
 

『僕のヤバい妻』

放送前から内容が似ていると言われていたゴーンガールが元ネタとなっているのは間違いないでしょうが、ゲスな登場人物達によるゲスな争いをツッコミながら眺め楽しめれる、良質な日本的エンタメ愛憎劇にアレンジされており、ゴーンガールを観た人でも楽しめるものになっていると思います。
 
登場人物の中で特筆すべきは、キムラ緑子高橋一生の年の差夫婦で、最初は単なるネタ要因かと思ったのですが、ある秘密を抱えており、終盤にかけて重要なキーパーソンとなります。
 

 

僕のヤバイ妻 DVD-BOX

 

トットてれび

世代ではありませんが、追体験する感じで楽しめました。
 
テレビが衰退し、趣味が細分化され、観なくなった若い人が増えたとはいえ、何らかのコンテンツをそれぞれ享受し、実況などで共有したりする文化は今もあるわけで、このドラマ制作者たちによる、その礎を築いた人々に対する讃歌と、まだこれからだ!というような力強い宣言を感じました。
 
 

『99.9―刑事専門弁護士―』

演出の木村ひさしさんのこれまでの作品と同様、小ネタ満載で、それを探すという楽しみ方が出来、話の方は多少凡庸で物足りないところはありますが、社会派な面もあり、冤罪を生み出すような検察の体質を批判する内容になっています。
 
ゲストもバラエティに富んでおり、ヒロインがプロレス好きということでプロレスラーが多数登場したり、『重版出来』との勝手なコラボとして漫画家の桂正和さんも出演。
 
 

『コントレール ~罪と恋~ 』

結末はビターで割と好みな落としどころだったのですが、桜庭ななみの行動があまり理解できず、やや話運びに強引なところもあり、展開の面白みに欠けました。
 
 
 
在住地域で放送されていなかった、『その「おこだわり」、私にもくれよ!!』は、6月末に放送されるようなので楽しみにしています。

育児はロックだ! ドラマ『奇跡の人』 感想

「ダメ男が元ヤン女に恋をした。その女には目と耳に障害のある娘がいた。そして、ダメ男は考える。オレがサリバン先生になってやる。そして彼女に世界を教えてやるんだ!」
 
これは企画書の初めの3行に書かれていたドラマの概要だそうで、面白いドラマは3行で言い表せると、公式HPにある脚本・岡田×河野P×後藤Pスペシャル鼎談で語られています。
 
 
登場人物の紹介はこちら
 
 
筋としては、ロックバカな一択の一途な思いや行動が周りを巻き込み、それぞれ成長していくという物語。主人公に優しい、少しファンタジックな世界観で、一択が住んでいるアパートの大家や住人らが一択や花をサポートしていきますが、脚本の岡田惠和さんの最近の作品と同様、一方で残酷な現実が同居しているのが特徴で、きれいごとだけではないシビアな面も同時に描かれており、そのバランスが絶妙であります。
 
この作品において、特に重要で、感情がシンクロしたキャラは、官僚を目指していて、福祉行政に詳しい福地こと「フクシくん」で、思いや感情だけで突っ走る一択に対して、イライラしつつ、現実的なアドバイスをするのですが、ドラマ全体をおとぎ話にしない役割も担っています。以下、一択に対して初めて本音の感情をぶつけるセリフ抜粋。
 
「僕はホント嫌いなんですよ。あなたみたいなバカが。何かを成し遂げようとするなら、ちゃんと学んだらどうなんだよ!俺はバカなんでこんなことしかできないみたいなこと言うんだよ、あんたみたい人はさ。さも思いつきとか直感の方が真理をついてるんじゃないかって平気で思ってる。それが許せないんだよ。わかんないんだったらわかんないまま済ませるなよ。自分がバカだと思ったらバカじゃなくなるよう努力しろよ。~」
 
自分も一択のような人物はあまり好きでない部分まあったので、よく言った!と思いました(笑)
 
 
あと、興味深かったポイントは、ロックとは何ぞやということが作品を通して語られており、その見方が独特でなるほどと思ったので、以下、少し長いですが、一択の飲み友である詩人を目指す馬場ちゃんの台詞と一択の台詞を引用。
 
「オレは、ロックの原点てのは、あいつじゃないかと思うんだ。少年。ほら、裸の王様に出てくるさ。~
みんながさ、分かってんだけどそれ言う?みたいなことをさ、軽くぽ~んと言うわけよ。みんな平気なんですか?王様、裸じゃないんですか?みたいな言い方だとさ、うるせぇよ黙ってろ、みたいな感じになっちゃって、世界は動かないの。王様は裸のまま。でもさ、あれ?王様はだかじゃね?ヌードキングじゃね?みたいに言うとさ、みんなが、だよな、そうだよね、みたいな風にして世界は動くわけだ。それが、ロックでしょうよ。 」
「ロックが空気読んじゃだめ。空気を切り裂くのがロックでしょうよ。ロックは、うるせぇって言い続けられないと。」
一択
「ロックってのは、弱い者の心の叫びみたいなところがあるじゃないですか。だから弱い人をちゃんと守るのもロックなのかなって」
 
 
残念というか、個人的にちょっと受け入れ難い要素もあって、それは花の旦那との決闘。相手は格闘技経験者?(うろ覚え)で、一択がボコボコにやられてしまうんですが、それをアパートの面々が温かく見守っているという構図がどうにも違和感。一応、犯罪ですし、もう少し対決の仕方を考えて欲しかったなと思います。
 
最後に、外せないのは役者陣の好演で、峯田さんの唯一無二の存在感はもちろんですが、それに勝るとも劣らない海役の住田萌乃の圧倒さ。身体表現と細かな感情の機微を見事に捉えた微妙な表情の変化が素晴らしく、見事に盲ろう児という難役を演じきっていました。

2016年7月放送開始ドラマ 期待度ランキング

個人的に期待度の高い作品を紹介します。

 
 

1. 神の舌を持つ男

 
脚本:櫻井武晴 演出:堤幸彦
伊藤雄介 加藤新
 
 
温泉地が舞台で、主人公があらゆる物質を成分分析できる舌の能力を持つというコミカルミステリー。櫻井さんと堤監督のタッグ作『ヤメゴク』は、個人的にはいまいちで、不安な面もありますが、設定的には期待できそうで楽しみにしています。
 
 

2. 徳山大五郎を誰が殺したか?

 
企画・原作:秋元康 脚本:徳尾浩司、喜安浩平、土屋亮一 演出:豊島圭介古厩智之、吉田浩太
 
 
朝、教室に横たわっていた担任の男性教師の遺体をクラスの女子高生たちが隠し続ける。という、無茶な導入な感じのストーリーですが、期待できるスタッフ陣で、どんなドラマになるか気になります。
 
 

3. ON 異常犯罪捜査官・藤堂比奈子

 
脚本:古家和尚 演出:白木啓一郎
 
出演:波瑠、横山裕要潤ほか
 
原作の感想を読むと、海外ドラマのクライムサスペンスっぽいとのこと。古家さんは、フジテレビの仕事は久々ですね。
 
 

4. 時をかける少女

 
脚本:渡部亮平 演出:岩本仁志
 
 
脚本の渡部さんの過去作は、僕は今まで観たことがないのですが、結構評価されているので、どんな新しい「時かけ」を見せてくれるのか楽しみです。
 
 

5. 営業部長 吉良奈津子

 
演出:河毛俊作
 
出演:松嶋菜々子松田龍平、DAIGO、原田泰造ほか
 
産後復帰し、仕事と家庭の両立に奮闘する女性を描いた井上由美子脚本作。
 
 

6. はじめまして、愛しています

 
脚本:遊川和彦 演出:片山修、日暮謙
 
出演:尾野真千子江口洋介ほか
 
特別養子縁組』を題材としたホームドラマのようですが、いつもの遊川作品のように一癖ある感じ。
 
 

7. 侠飯 〜おとこめし〜

 
脚本:根本ノンジ、清水匡 演出:榊英雄、山口雄也
 
出演:生瀬勝久柄本時生内田理央、高畑裕太、戸塚純貴、TKO
 
福澤徹三原作の任侠×グルメをテーマとした作品。監督の榊さんはゴーバスターズの黒木司令官をやっていた方。最近はピンク映画も撮っているようです。
 
 

8. 遺産相続弁護士 柿崎真一

 
脚本:林誠人ほか 演出:白川士ほか
 
出演:三上博史森川葵酒井若菜、豊原功輔
 
プラチナナイト枠の作品は最近全然見てなかったんですが、チーフ脚本がケータイ刑事シリーズの林さんなので、それなりに期待。
 

9. こえ恋

 
監督:平林克理、湯浅弘章、宝来忠昭 シリーズ構成:嶋田うれ葉 脚本:大林利江子、中村能子、三浦直之
 
出演:永野芽郁竜星涼櫻井孝宏(こえ)
 
comico初の実写テレビドラマ化で、紙袋をかぶった男の子が出てくるラブストーリー。
 
演出に押井守監督の実写作の撮影監督をいくつかやった湯浅さん、脚本に劇団ロロ主宰の三浦さんと気になる布陣。